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3話 地底に灯る星々

Penulis: 日蔭スミレ
last update Terakhir Diperbarui: 2025-08-14 12:24:28

 ──ネクターの祖父が遺した冒険記録には魅力溢れる言葉が沢山散りばめられていた。

『風の祭壇』に『海神わだつみの祝福』、それから『魔獣の舌』なんていうユニークなものも。そのようなロマンに満ちた言葉で、十ほどの遺跡が記されていた。

 中、ネクターが子どもの頃から引きつけられた言葉は『五百年の孤独』だった。

 どんな場所で、どんな光景が待っているのだろうか。

 幾度となく想像を巡らせてきた。

 かつての王族や貴族が遺した財宝か、或いは古代の人々が残した儚い壁画か。はたまた岩の隙間に眠る巨大な金剛石の原石か──

 飛行二輪から降り立ったネクターは、今一度、古びた冒険手帳を取り出して確認した。

 地底遺跡──その名の通り、深い洞窟であることは想像に難くない。

 ただ、祖父の手記によれば、縦穴ではなく、比較的なだらかで、狭すぎもしない洞窟らしい。中腹には蒼く澄んだ地底湖があり、それはそれは美しいのだと、余談のように記されていた。

 だからこそ、ネクターは登山用の厳重な装備ではなく、仕事用の地味なドレスで訪れることにした。それでも念のため、飛行二輪の側車からロープを取り出しリュックサックへ詰め込むと、ガス式カンテラを手に取った。

「さて、行きましょ……」

 独りごちるが、すぐに身震いが起きた。

 ──やっとだ。やっとこの日が来たのだ。

  幾度も夢に見た場所へ、自分の足で辿り着いた。その喜びに、思わず声を漏らす。

 一頻り喜びに唸った後、ネクターは〝落石注意・立ち入り禁止〟の札の下がったロープを跨いで洞窟に向かって歩み始めた。

 ***

 洞窟に潜ってしばらく経った頃、彼女は地底湖の近くまで辿り着いていた。

 だが──あれほど心を躍らせていたネクターだったが、この遺跡の正体に気付いたのは、意外と早い段階だった。

 そう。ここはどうやら、戦争遺跡、或いは軍事遺跡だったのだ。

 あちこちに錆びついた甲冑や短剣が転がっており、澄んだ地底湖の底を覗き込めば、黄ばんだ人骨らしき影がちらほらと沈んでいる。

 正直、気味が悪い。──だが、この程度の雰囲気には慣れていた。探索者として数々の遺跡を踏破してきたネクターにとって、そう珍しいことではない。

 とはいえ「五百年の孤独」と銘打たれた戦争遺跡となると──

 どうにも胸騒ぎがする。

(綺麗な軍服を着て座っている骸骨とかだったら嫌ね……)

 思わず立ち止まって振り返り、来た道を引き返すか考える。

 だが、幼少より憧れ続けた場所だ。期待を裏切られたとしても、それをこの目で確と見たいと思う好奇心が勝る。

 ネクターは更に地底奥へと進んでいった。

 やがて、洞窟は人ひとりがやっと通れるほどの狭さになり、それでも彼女は躊躇せず、奥へ奥へと進んでいった。

 幾何かの時が過ぎ、再び視界が開けたその先で、ネクターは思わず息をのんだ。

 そこには、幻想的な緑の光が、無数の点となってまたたく空間が広がっていた。

(すごい……)

 天井を見上げれば、光虫の群れが夜空の星のようにまたたいている。

 ネクターはランタンの灯りを落とした。すると──光虫たちはそれに応えるように、先程よりも一層、強い光を放ち始めた。

 何度も洞窟探索を重ねてきたが、これほどの光虫を目にするのは初めてだ。

「とは言っても……これが〝五百年の孤独〟では無さそうよね」

 ぽつりと独りごちた、その時だった。

 光虫の群れがふわりと動き、まるでネクターを誘うように、奥へ奥へと舞い始めたのだ。

 光に導かれるまま進んだ先の岩肌は、これまでと違っていた。自然の浸食ではなく、人の手で掘られた痕跡が、はっきりとそこにある。

 神妙に思いつつ、ネクターは光虫を追って、ゆったりとした歩調で先に進んだ。

 その通路の奥。空間はやがて広がり、まるで部屋のような静けさに包まれていた。

 隅には妙な装置。中央には、人がひとり横たわれそうな──棺のような箱が、ぽつんと置かれていた。

 近付いて見れば、箱には金庫のようなダイヤル式の鍵が三つ。試しに回してみると、 動きは鈍いながらも確かに回る。

(鍵が三つ……これが、〝五百年の孤独〟?)

 あまりにも露骨な鍵の厳重さに、ますます疑念は深まった。

 ネクターはその場に座り込むと、リュックサックからノートとペン、そして聴診器を取り出す。

 基本的には修理技術士だが。金庫の解錠依頼を受けることも多い。ダイヤル錠の音を聴いて数値を割り出すのはお手のものだった。

 ……そこに鍵があるなら、開けてみたくなる。

 ネクターは無我夢中で静かな格闘を始めた。

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